派遣コラム
派遣スタッフの社内厚生施設利用について ──「利用できますか?」と聞かれた時の正しい対応とは──

Q.派遣先として、派遣スタッフにも社員食堂や休憩室、更衣室・ロッカーを利用できるようにすべきでしょうか?
A.はい、できる限り利用できるようにすべきです。
そのうち給食施設(社員食堂)・休憩室・更衣室については、
労働者派遣法40条3項により「派遣スタッフにも利用の機会を与える義務」があります。
更衣用ロッカーも、更衣室と一体の設備として実務上は同様に利用させることが求められます。
また、売店や社内診療所などその他の福利厚生施設についても、同条4項により、自社社員が通常利用しているのであれば、派遣スタッフにも利用できるよう便宜を図るよう配慮する義務が課されています。
製造業の現場では、派遣スタッフから
「食堂は使えますか?」
「更衣室や休憩室はどこを使えばいいですか?」
といった質問を受ける場面が少なくありません。
また、派遣元との情報共有が十分でないと、
「派遣さんは食堂利用NGのはずです」
「売店は社員だけです」
など、派遣先内で解釈がばらつき、後からトラブルにつながるケースもあります。
本記事では、派遣スタッフが派遣先企業の厚生施設を利用できるのかについて、法的根拠と実務上の注意点を整理します。
派遣スタッフも、基本的に社員と同様に利用できます
労働者派遣法第40条の2では、派遣先に対し次のように求めています。
「派遣先は、派遣労働者の福祉の増進のために必要な措置を講ずるよう努めること」
さらに、同法第40条第3項では、「派遣先は、給食施設、休憩室、更衣室について、派遣労働者にも利用の機会を与えなければならない」と定められています。
また第40条第4項では、給食施設・休憩室・更衣室以外の福利厚生施設についても、派遣先に便宜供与等の必要な措置を講ずるよう配慮する義務が課されています。
つまり、給食施設(社員食堂)・休憩室・更衣室は「利用機会付与の義務がある施設」、それ以外の福利厚生施設も「利用できるよう便宜を図ることが望ましい施設」と整理できます。
対象となる「厚生施設」の具体例
厚労省の指針や通達では、次のような施設が“通常利用する福利厚生施設”として例示されています。
- 給食施設(社員食堂など)
- 休憩室
- 更衣室・更衣用ロッカー
- 売店
- 社内診療所
- 敷地内のカフェスペース
- 自販機、シャワー室・リフレッシュルーム など
原則と例外:制限できるケースはあるのか?
法令上、利用機会の提供が義務づけられている施設
労働者派遣法第40条第3項により、次の施設については、派遣先には派遣労働者にも利用の機会を与える義務があります。
- 給食施設(社員食堂 等)
- 休憩室
- 更衣室(更衣用ロッカーを含む)
これらは、勤務中の食事や休憩、着替えといった最低限の就業環境に直結する施設です。
「派遣だから」という理由のみで利用を制限することは、法の趣旨に反すると考えられます。
その他、利用を認めるよう配慮すべき施設(配慮義務の対象)
同法第40条第4項では、そのほかの福利厚生施設についても、
派遣先に便宜供与等の措置を講ずるよう配慮する義務が課されています。たとえば、
- 売店
- 社内診療所
- 敷地内のカフェスペース
- 自販機コーナー
- シャワー室・リフレッシュルーム
- 社内レクリエーション施設 など
これらについては、法律上「必ず利用させなければならない」とまでは書かれていませんが、
自社社員が通常利用しているのであれば、原則として派遣スタッフにも利用を認める方向で考えるべき施設です。
一定の条件下で制限が検討される施設
一方で、
- 社員限定のフィットネス施設や会員制クラブ
- 特別な選抜社員のみが利用できるスペース
など、「そもそもの設置趣旨が限定的」な施設については、利用制限に合理性が認められることもあります。ただし、この場合でも派遣元への説明・合意は必須です。
給食施設・休憩室・更衣室に課される「利用機会付与義務」と、それ以外の施設に課される「配慮義務」の違い、さらに労働者派遣個別契約書への記載例や、シフトと食堂営業時間のミスマッチによるトラブル事例などは、こちらで図や例を交えて詳しく解説しています。
自社のルール設計や契約書の記載を見直したい場合は、こちらも参考にしてください。
実務で起きがちなトラブルと正しい対応
【ケース1】派遣スタッフから利用希望があったが、現場ルールが曖昧で対応できない
例:
派遣スタッフ「食堂を利用したいのですが、使っていいと言われました」
現場担当者「派遣さんは使えたかな?ちょっとわからない…」
このような“場当たり的な対応”が、もっともトラブルを生むパターンです。
正しい対応例
1.まずは派遣元に「利用希望があった」ことを共有する
2.派遣元がスタッフに事前説明している運用と齟齬がないか確認する
3.会社ルール(利用可否・支払い方法など)を明文化して伝える
4.必要に応じて派遣元経由で本人に説明してもらう
【ケース2】派遣元と派遣先の運用が食い違い、スタッフが困惑する
例:
派遣元「社員食堂は利用OKです」
派遣先「派遣さんは食堂NGです」
実務上もっとも多いトラブルであり、
労働者派遣法第40条第3項・第4項の趣旨から見ても好ましくありません。
事前に確認しておくべき項目(チェックリスト)
- 利用可能な厚生施設の一覧(食堂・休憩室・更衣室・ロッカー・売店 など)
- 利用時間の制限(例:混雑時間帯の利用ルール 等)
- 食堂料金の支払い方法(現金・カード・社員証連動など)
- 食堂の営業時間とシフト(夜勤者が利用できるか など)
- ロッカー割当の有無
- 休憩室の場所・使用ルール
- 制服の保管方法
派遣契約書や事前説明書に明記しておくことで、後トラブルを防げます。
派遣元・派遣先の役割の違い
派遣先が担うべきこと
- 利用可能施設のルール整備
- 給食施設・休憩室・更衣室について、派遣労働者にも利用機会を与えること(法40条3項)
- その他の福利厚生施設についても、利用できるよう便宜供与に努めること(法40条4項)
- その内容を派遣元に正確に伝えること
派遣元が担うべきこと
- 派遣先の運用ルールをスタッフへ事前に説明すること
- 派遣契約・就業条件明示書への反映
- 施設利用に関する質問や苦情への一次対応・取次ぎ
厚生施設の利用は「働きやすさ」そのもの
食堂や休憩室の利用は、
派遣スタッフにとって “待遇”というより「働くうえでの基本的な環境」 です。
利用を制限すると、
- 疎外感
- コミュニケーション不足
- 定着率の低下
につながることが、多くの現場から報告されています。
一方で、利用をスムーズに認める会社の方が、派遣スタッフの職場満足度は圧倒的に高い傾向があります。
まとめ
労働者派遣法では、食堂・休憩室・更衣室は派遣スタッフにも利用させる義務があり、その他の福利厚生施設についても便宜供与への配慮が求められます。
実務でも、これらの厚生施設を原則として利用可能とすることは定着率向上にもつながります。
派遣先・派遣元双方が適切な環境を整えることで、安心して働ける職場づくりがより進んでいきます。
この記事の執筆者
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