派遣コラム
危険予知訓練(KYT)が陥りやすい問題とは?
~3つのポイントに分けて解説!~
(2023.03.31配信記事のデータを更新しています)
ご安全に。
今回のテーマは、「危険予知訓練(以下、KYTと記載します)」です。
皆様の職場では、「KYT」は行われていますか?「KYT」を行っていて、以下のような問題はありませんか?
・活動を行っているにもかかわらず、不安全行動を抑制できていない。
・活発な意見交換にならず、活動が形骸化してきた。
この記事では、こうした悩みをお持ちの企業担当者様に向けて、
改めて「KYTを実践する意義」や「KYTの効果的な進め方」について整理してみます。
KYTとは何か?
KYT(危険予知訓練)とは、作業現場や職場で潜在する危険を事前に予測し、事故や災害を未然に防ぐための訓練手法です。
詳細は後述しますが、KYTは、「危険(Kiken)」「予知(Yochi)」「訓練(Training)」の頭文字を取ったもので、グループでディスカッションを行いながら、危険を発見し、その解決策を考えることを目的としています。
具体的には、KYTは「4ラウンド法」と呼ばれる手順に基づいて進行されます。
これは、現場の危険要因を発見する「現状把握」、最も重要な問題点を洗い出す「本質追究」、解決策を考える「対策樹立」、
そして行動目標を設定する「目標設定」という4つの段階を経る方法です。これにより、作業員が危険を察知し、
実際の業務で安全な行動を取れるようトレーニングします。
KYTは、労働災害の発生リスクが高い業種、特に製造業や建設業で広く行われており、
チーム全体で危険に対する意識を高め、安全な職場づくりに貢献しています。
KYTを実践する目的・意義
普段からKYTを積極的に行っていても、いつの間にか活動の目的・意義がメンバーの中で曖昧になっているケースがあります。
「何が目的か」「何が狙いか」をメンバーに理解させておかなければ、活動成果は次第に期待できないものになってしまうでしょう。
ここではまず「KYT」を行う目的・意義についての説明から始めます。
危険を危険と気付かせる集中力
KYTとは、危険を危険と気付かせる感受性をミーティングで鋭くし、危険に対する情報を共有し合い、それをミーティングで解決していく中で問題解決能力を向上させ、作業行動の要所要所で指差し呼称を行うことにより集中力を高め、チームワークで実践への意欲を強める手法です。
(中央労働災害防止協会:「危険予知訓練(KYT)が目指すもの」より)
近年、製造業の現場は、あらゆる安全対策が講じられ、職場は明るく快適で働きやすい環境になりました。ですがその反面、危険源に対する感受性の低下が懸念されています。危険を危険と気付くことなく不用意な行動をとり、現在も多くの労働災害が発生しています。
KYTは、危険に関する情報をメンバー全員で意見し合う過程で、個人では気付けなかった危険に気付かせることが出来ます。
また、解決策を考えていく過程では、より効果的な回避行動を意見し合い、知識を高め、意識的に危険を回避した安全行動がとれるようにするのに効果的な訓練です。
安全活動推進力の強化
またKYTは、安全に関する諸活動の推進力を強化することにも繋がります。
KYTは全員参加が基本です。現場に潜む危険要因、それらが引き起こす労働災害を全員で予測し、話し合い、共有することで
適切な対応策を講じられるようになる為の訓練です。
さらに、KYTを通じて、以下のような効果も期待できます。
・危険に対して想像力を働かせることにより、感度が刺激され、KY活動時に意見が出やすくなる。
・危険源に対する意識が醸成され、5S推進活動が活発化する。
・チームワークが高まり、従業員同士の相互注意活動が活発化する。
昭和49年からKYT活動は始まった
厚生労働省「令和3年労働災害発生状況」によると、全業種における労働災害による死亡者数は、昭和49年は4,332人でしたが、令和3年では867人となり、
この46年間で約8割減少しました。
引用:厚生労働省「令和3年労働災害発生状況」
これは、昭和47年労働安全衛生法の施行以後、様々な安全に関する法令、基準が広く展開されたことによるものではありますが、
同時に昭和49年から展開された「KYT」の全国への普及が、間接的に労働災害による死傷者数の減少に寄与していった、とも考えられています。
製造業はまだまだ労働災害の発生件数が多い業種です。そのため、安全行動を選択させるためのトレーニングとなる「KYT」には
大変重要な意義があるといえるでしょう。
KYT活動の効果とメリット
KYTは、単なるトレーニングにとどまらず、職場全体の安全意識を高め、
労働災害を未然に防ぐための非常に効果的な手法です。KYTを実施することで、以下のようなメリットが得られます。
危険感受性の向上: KYTは作業者が普段気付きにくい危険に対する感受性を鋭くし、危険を発見する力を養います。これにより、事故が発生する前に対策を講じることができるようになります。
チームワークの強化: グループディスカッションを通じて、メンバー全員が意見を出し合い協力するため、チーム内の連携が深まり、職場全体のコミュニケーションが向上します。
安全行動の習慣化: KYTは危険を予測し、解決策をチームで考えるプロセスを繰り返し行うため、日常の作業においても安全な行動を自然に取る習慣が身に付きます。
事故防止の効果: 定期的にKYTを行うことで、労働災害のリスクを大幅に減少させ、事故の発生を防ぐ具体的な対策が実行可能となります。
KYTのこれらの効果は、職場の安全文化の向上だけでなく、従業員一人ひとりの安全意識の定着にも寄与します。
正しいKYT活動の進め方
既にKYTを長く展開している現場であっても、活動を繰り返していく過程でいつの間にか正しい流れで進められていないケースがあります。
実施時間を縮めていこうとする流れの中で、実は重要な運用ルールまで省略してしまっていることはありませんか?知らず知らずのうちに、
KYTが持つ本来の実施効果が薄れてしまっている場合があります。ここでは改めて、中央労働災害防止協会が推奨している
正しい「KYTの進め方」をおさらいします。
ここでは、KYTの基礎手法である「4ラウンド法」をご紹介します。チーム単位で職場や作業の状況を記したイラストシートや写真を使用して、
現場に潜む危険を発見・把握・解決していく手法です。「どんな危険が潜んでいるか」を、全員の意見交換が可能な単位(5,6人程度)で話し合いを行い、
問題解決の4つの段階(ラウンド)を経て進めていきます。
第1ラウンド 現状把握
第1ラウンドを始めるに当たってはまず、進行役がKYTの主旨をしっかりと説明しておきましょう。
「KYTは危険予知の能力を高める訓練であり、労働災害を防止するために有効である」ことを説明の上、「チーム全員の積極的な発言が重要である」ことを、
あらかじめメンバー全員に周知させておくことが大切です。
その後、職場や作業の状況を記したイラストシートや写真を見て、この中にどんな危険が潜んでいるか、全員で意見を出し合います。どのような事故が発生するのか、
想定される事例を出来るだけ具体的に説明させましょう。「○○(危険要因)なので、〇〇(事故につながる行動)して、〇〇(事故と身体の状態)になる」のような文体で
意見を集め、出された意見はホワイトボードなどに書き出していきます。
この時、参加者全員が発言するように、進行役はチーム全員から意見を聞き入れるようにしましょう。
進行役は、出された意見に対し、前出のような具体性を求めることも必要ですが、チーム全員に1件以上発言させることを意識すべきです。
この第1ラウンドは、いわゆる「質より量」です。
出された意見は原則否定はせず、皆が自由に意見を出せるようにすることが大切です。
第2ラウンド 本質追究
第2ラウンドでは、第1ラウンドであがった意見のうち、より重要と思われる項目に〇印を付けます。
そして、〇印を付けた項目の中から、さらに絞り込みを行い、「特に危険なポイント」に◎印とアンダーラインを引きます。
ここでのポイントは、項目に印を付ける際、安易に多数決だけで決めず、チームの意見が一致するまで議論するプロセスを踏むことです。
こちらもチームワークの醸成においてとても大切です。
議論の場においても、出された意見への否定的なコメントはしないように配慮が必要です。
テーマによっては、少々時間がかかってしまう場合もありますが、メンバーの意見を無視せず、納得感のある結論を導くことが、進行役の重要な役割です。
第3ラウンド 対策樹立
第3ラウンドでは、第2ラウンドで◎印を付けた「特に危険なポイント」を解決、回避するためには、どうしたらよいか、具体的な対策案をチーム全員で出し合います。
対策案は、実践的な行動内容に落とし込めるところまで考えておくことで、実際の場面で行動に移しやすくなります。
第4ラウンド 目標設定
第4ラウンドでは、第3ラウンドで上がった対策案から、実行すべき重点事項をピックアップし、最終的には行動目標として設定します。
行動目標は、簡潔で、唱和しやすい内容に組み立てる必要はありますが、重要なキーワードまで省略しないよう、配慮が必要です。(ここは、進行役の腕の見せ所です。)
チームの意見も参考にして、目標設定しましょう。行動目標の文末は、「〇〇しよう、ヨシ!」とします。「〇〇しない」「〇〇禁止」のような否定文にならないように
注意してください。
行動目標を設定したら、進行役の発声に続けて、チーム全員でイラスト(または写真)を指で差し、「〇〇しよう、ヨシ!」と指差呼称で復唱します。
なお、指差呼称を行う際は、集中力を高めさせる為に座ったままではなく、全員で立って行わせることが大切です。
対象を指で差し、発声させることにより、対象に対する意識レベルは向上します。また、確認の精度、危険への感度を向上させることができます。
1度や2度のKYTでは成果は見られないと思いますが、何度も定期的に行うことで、事故・災害の発生を未然に防ぐ安全行動に繋がっていきます。
より実施効果を上げるために、最後の指差呼称の第一声を、いつもの進行役から、チームメンバーの輪番制にしてみるのも良いでしょう。
KYT活動の効果が実感できない3つの原因と対策
ここまでは、KYTを行う意義・目的、KYT本来の正しい進め方について、おさらいしてきました。
ここからは更に、KYTの効果が実感できない原因やその対策例について触れていきたいと思います。
活動を繰り返していくと、次の3つようなことが発生します。
1)新しく加入したメンバーに、KYTの目的・意義が落とし込めていない
2)KYTのテーマが実作業とかけ離れており、現実味がない
3)短時間で効率的に進めようとするあまり、変化に乏しく、活動が形骸化している
では、上記の3つの原因への対策を紹介していきます。
目的・意義を理解してもらう
チームの中に「KYTが何の為に行うのかいまいち理解していない」人はいませんか?
KYTの目的は、簡潔に言えば、「自分や職場の仲間が怪我をしないため」です。この目的を理解できていないメンバーは、「怪我なんて自分には関係ない」などと、
職場のリスクを自分事として捉えてない可能性があります。
特に、新規従業員は、現場の生産に迷惑をかけないように、と思うあまり、作業を覚えること、現場の風土に馴染むことに注意が集中してしまいがちな為、
俯瞰で見る余裕が無く、周囲の危険に気付けません。配属前に教わった過去の災害事例や、注意事項を、つい忘れてしまう人もいるでしょう。
それゆえ、ルールを破る意識もなく、災害に遭ってしまいます。
ですが、人は誰しも「怪我したい」「事故したい」などとは考えていません。新規従業員には、KYTを始める前に、その目的・意義を説明してください。
そして、現場風土に馴染もうとする過程でKYTに触れ、KYTを通じて災害の事例を知っていく過程で、次第に災害を自分事として捉えるようになるでしょう。
はじめは、わからなかった解決策も、次第に意見ができるようになるはずです。
KYT活動のテーマに現実味を
前述の通り、KYTではイラストや写真を用いて、どんな危険が潜んでいるか、意見を出し合います。
しかし、こうしたKYTテーマは、ずっと繰り返していくと、テーマが枯渇してしまい、つい実際の職場環境から関連性の低い例題をあげてしまうようなケースがあります。全く意味がないとまでは言えませんが、リアリティのあるトレーニングにならず、KYT本来の目的・意義も捉え辛くなるでしょう。
KYTのテーマは、過去災害が起点でなければならないという縛りはありません。ヒヤリハットから得た情報、職場巡視で指摘された課題、5S活動の課題や、
リスクアセスメント事例などから、労災への想像を膨らませることは可能です。
他の安全活動との連携を視野に入れたKYTは、テーマのバリエーションが増えますし、諸活動が活発化すると考えられます。
活動に少しの変化を
安全活動は、大きく活動の方向を転換させることは少なく、定例的に成果が出るまで繰り返し行うことが基本です。
しかし、単調な流れを繰り返してしまうと、次第に新鮮味がなくなり、活動の形骸化に陥ってしまうものです。回数を重ねるに連れて、第1ラウンド目の段階から
最終ラウンドの行動目標が読めてしまったり、同じ人にばかり意見を出させることで新しいメンバーの意見が出にくくなったりすると、
チーム全体の活動モチベーションが低下してしまいます。
活動時間を有効活用し成果を伴う活動とするには、通常時より少し時間はかかるかも知れませんが、進行役を変更させてみたり、意見を出す順番を変更したり、
チーム編成を変更するなど、小さな変化をいくつか加えることで活動の雰囲気を変えてみるのも有効かと思います。
フジアルテの取り組み
フジアルテでは安全衛生活動をすべての活動の基本として捉えています。
雇入時安全教育では、安全教育の基本的事項に加え、お客様特有の構内ルールを事前教育、そして業務上、通勤途上の過去事例から学びを得た危険予知教育にも
取り組んでいます。
その他、既存従業員への安全行動を促す取り組みとして、定期的に業務上、通勤途上に関する最新事故事例の紹介を含めた啓発資料の配信や、
職場環境に関するヒヤリングフォームを配信し、従業員と連携した安全活動を進めています。
また、これらのフジアルテの安全衛生活動は、お客様が推進している安全衛生活動への理解と連携が重要であると考えています。
製造現場のプロであるお客様と同じ安全視点で活動に取り組んでいけるよう、弊社管理担当者は漏れなく「職長教育」を受講しているだけでなく、
その他、安全管理活動への教育研修にも力を入れています。
まとめ
今回は、安全教育の中でも危険予知訓練(KYT)に焦点を当てて、解説致しました。
効果的にKYTを進める方法は、まとめると以下の通りです。
1)KYTは何のために行うのか、その目的・意義を明確に伝える
2)例題はできる限り、実作業に絡めたテーマを提示する
3)形骸化を感じたら、流れが変わる小さな変化点を加える
今一度、KYTの目的や意義の理解、活動の進め方を見直して、不安全行動を起こさない意識を醸成し、不安全状態を放置しない安全風土で
「労働災害ゼロ」を達成させましょう。
また、製造現場の課題にあわせ、業務災害を未然に防ぐための対策事例を「改善・向上事例」にてご紹介しています。
こちらもぜひご覧ください。
★当社の安全衛生活動の事例
「製造派遣で連続「無災害」表彰を実現した、製造現場における安全衛生活動の具体的な取り組み事例」
★フジアルテ「改善・向上事例」はこちら
https://fujiarte.co.jp/results/case
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