1. 技能実習から育成就労へ 制度変更のポイントを詳しく解説

派遣コラム

2024.06.27

技能実習から育成就労へ 制度変更のポイントを詳しく解説

サムネイル画像:技能実習から育成就労へ

 

外国人労働者の技能実習制度に代わる新制度「育成就労」の新設等を柱とする改正出入国管理法がいよいよ成立となります。

外国人技能実習制度と特定技能制度のあり方については、2022年12月から16回にわたり開催された有識者会議で議論が進められ、2023年11月30日に有識者会議の最終報告書が政府へ提出されました。

そして2024年2月に行われた「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を経て、3月15日に技能実習に代わる新制度「育成就労」を新設する出入国管理法などの改正案を閣議決定し、6月14日の参議院本会議で成立しました。

この記事では、2024年5月29日開催の弊社セミナーにご登壇いただいた弁護士の杉田昌平氏の解説を基に、新制度「育成就労」について説明します。セミナーのアーカイブ配信も実施していますので、詳しく知りたい方はぜひご視聴ください。

育成就労制度とは?

育成就労制度とは、現行の技能実習制度に代わる新たな外国人雇用の制度です。
2024年3月15日に政府が閣議決定し、2024年6月14日に参議院本会議にて成立しました。

従来の外国人技能実習制度は廃止となり、新たな制度として育成就労制度が創設されることになりました。

画像:育成就労制度の概要

従来の技能実習制度が国際貢献人材育成を目的としていたのに対し、新制度である育成就労制度は、人材確保と人材育成を目的としており、基本的に3年間の育成期間で特定技能1号の水準の人材に育成するとしています。

したがって、特定技能制度は適正化を図った上で現行制度が存続されるため、外国人労働者の就労は特定技能制度を中心にした制度設計に移行していくことになります。

従来の技能実習制度と育成就労制度について、主な違いを表にまとめました。

画像:「技能実習」と「育成就労」の制度比較

育成就労制度の受入れ対象分野・職種・人数枠

育成就労制度は、当初は非専門的分野に位置付けられますが、一定期間の育成を経て、専門的・技術的分野である特定技能1号への移行を想定されています。つまり、育成就労制度は特定技能1号への移行のための在留資格であることが明確化されました。

したがって、育成就労産業分野は、特定技能の対象産業分野の中から一部が指定される見込みです。具体的にはどの産業分野が指定されるかは、今後の省令で判明します。

また、育成就労産業分野の中でも、「労働者派遣等育成就労産業分野」と呼ばれる分野が設けられる可能性があります。この分野では労働者派遣が認められる見込みで、農業や漁業などが該当すると見られています。

画像:産業分野の分類

 

受け入れができなくなる産業分野は?

このように、現行の技能実習制度では受入れ可能な職種であっても、「新制度では受入れができない」職種が発生する懸念もありました。

しかし、2024年3月29日「特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について」の閣議決定により、特定技能制度の対象分野の追加・拡大が行われました。これにより、育成就労制度においても、同様の対象分野での受け入れが可能になると思われます。

●特定技能制度において追加となる対象分野
自動車運送業
鉄道
林業
木材産業

●特定技能制度において新たな業務が追加される産業分野
工業製品製造業分野
造船・舶用工業分野
飲食料品製造業分野

また、特定技能制度では、各産業分野において人数枠が設定されており、育成就労制度が始まる際にも同様に人数枠が設定されると考えられます。

画像:特定技能制度における受入人数の推移

「育成就労制度」の大きな特徴である”転籍”の柔軟化

育成就労制度の大きな特徴として、転籍(育成就労先の変更)が一定の要件の下で認められる点が挙げられます。

転籍が可能となるのは、「やむを得ない事情がある場合」と「本人の希望による場合」の2パターンです。本人の希望による転籍の場合は、一定期間の就労経験が必要となる見込みです。

画像:転籍の際のメカニズム(管理型育成就労)

「やむを得ない場合の転籍」の範囲拡大

育成就労制度では、外国人労働者の人権保護など権利の向上も重要な要素です。

現行の技能実習制度においても、「やむを得ない事情がある場合」には受入れ先の転籍は認められていますが、育成就労制度では「やむを得ない場合の転籍」の範囲が拡大され、手続きも柔軟化されます。

職場における暴力やハラスメント事案、人権侵害などの法令違反が起きた場合だけでなく、例えば労働条件について契約時の内容と実態の間に一定の相違がある場合、つまり「聞いていた話と違う」といったケースでも、転籍が認められる可能性があります。

外国人労働者と認識の相違などによりやむを得ない場合の転籍が発生すると、受け入れ企業にも大きな影響があることが予想されます。こうした事態を避けるためには、これまで以上に労働条件通知書の提示や、本人説明の方法、説明内容を記録に残すといった実務を厳密に進めていくことが大切になるでしょう。

「本人希望」の転籍の要件

制度上、3年間一つの受入れ機関での就労が効果的であり望ましいものの、以下を満たす場合に限り、本人意向による転籍を認めるとしています。

・同一の機関において就労した期間が1~2年(分野ごとに設定)を超えている
・技能検定試験基礎級 合格
・日本語能力A1(JLPT N5 合格等)※分野によって上乗せ可
・転籍先が、適切であると認められる一定の要件を満たす
・同一の業務区分

転籍の手続き

転籍する際は、新しい育成就労先での育成就労計画の認定が必要になります。このとき、転籍先の職種が従前と異なる場合は、原則として認められません。また、転籍先事業所の適正性についても審査があります。

転籍を希望する場合、育成就労外国人本人から育成就労機構や監理支援機関、現在の育成就労実施者に申し出を行います。受け付けた関係機関は、この申し出を相互に通知する義務を負います。また、この義務に違反した場合の罰則も定められています。

その後、監理支援機関が新しい育成就労実施者との間で雇用契約成立のあっせんを行います。あっせんが整い次第、新規の育成就労計画認定申請を行うことになります。

外国人にとっては特定技能への移行を見据えたキャリアアップの道筋を描きやすくなった

育成就労制度は、「対象となる外国人ごとに育成就労計画を定めた上で計画的に特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指す」として、計画型の在留資格となることが明記されました。

人材育成のあり方として、特定技能制度の「業務区分」の中で主たる技能を定めて「育成就労計画」を作成し、その計画に基づいて育成・就労を行うことが想定されています。つまり、分野や業務の連続性の強化により、特定技能への移行を見据えたキャリアアップの道筋を描くのが容易になると思われます。

また育成就労制度では、継続的な学習による日本語能力の向上を目指すため、以下のような日本語能力の要件が定められる見込みです。

就労前:日本語能力試験N5合格または認定日本語教育機関において相当講習を受講
1年目の終了時:日本語能力試験N5合格、技能検定試験基礎等合格
3年目の終了時:日本語能力試験N4合格、技能検定試験随時3級等または特定技能1号評価試験合格

この日本語能力向上のプロセスはコストがかかります。ある程度は、受入れ企業側の負担増となる可能性があると認識する必要があるでしょう。

育成就労制度はいつから始まる?

6月14日の参議院本会議で成立しました。施行に向けた準備期間は比較的長く、約2から3年を見込んでいます。
したがって、改正法の施行は2026年〜2027年になると予想されます。

>>参考:「技能実習」が「育成就労」に 参院で可決 新制度のポイントは

施行されるまでの間の技能実習制度からの経過措置ですが、育成就労制度が開始されるまでに入国した技能実習生は、原則として技能実習2号が終わるまで在留できることが検討されています。

そのため、2027年4月1日から育成就労制度が開始されるとした場合、2027年3月に入国した技能実習生は2030年まで技能実習を行うことができることになります。

また、「育成就労制度の施行後も、制度の運用状況について不断の検証と必要な見直しを行う」とあり、5年後などに再度見直しが行われる可能性があります。加えて、永住許可の対象となる人数が増えることが予想されるため、永住許可の適正化についても言及がなされています。

無料アーカイブ配信でさらに詳しく

育成就労制度は、今後は、特定技能1号への人材育成の道として、技能労働者の入り口として重要な役割を担っていくと思われます。

今後は、施行までの間、徐々に各社の育成就労制度を踏まえた受入れの仕組みを構築していくことが必要になっていくといえるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
育成就労制度について、2024年5月末時点現在でわかる内容を解説しました。
育成就労産業分野や入国後講習の内容をはじめ、本制度については未確定な部分もあります。
今後も進展がありましたら、更新をさせていただきますので、引き続き本コラムをご覧いただけますと幸いです。

 

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