派遣コラム
製造派遣の受け入れ、本当に大丈夫ですか? ― 事業所の定義・3年ルール・派遣先の法的責任を整理する

「工場は別だから別管理」のつもりだったM社のケース
自動車部品メーカーM社では、同一敷地内に「第一工場」と「第二工場」を構え、それぞれで製造派遣を活用していました。
人事部では「工場が違うのだから、事業所も別」と判断し、抵触日も個別に管理していました。
しかし行政調査では、次の点が確認されます。
- 両工場は物理的には隣接しているが、管理体制・指揮命令系統が明確に分かれておらず、事業所区分の整理が曖昧
- 派遣先管理台帳において、就業時間は記載されているものの、休憩時間の記録が不十分
- 苦情処理の記載が形式的で、実効性が疑われる
M社は制度理解そのものを誤っていたわけではありません。
しかし、「事業所の捉え方」と「台帳記載の精度」という入口部分の甘さが、全体の管理リスクにつながっていました。
製造派遣で派遣先が必ず押さえるべき5つの実務論点
「事業所」の定義は、まず“場所的独立性”で判断される
派遣法における「事業所」は、単に登記上の本社・支店名や、
社内組織図だけで決まるものではありません。
ただし、判断の原則は「場所的な独立性」です。
- 原則として、場所が離れていれば別事業所
- 同一敷地内であっても、各部門が独立性を持っていれば別事業所と認められる場合もある
一方で、例外的に、
- 出張所のような小規模拠点で人事・労務・経理などの管理が本社に完全に依存している
といった場合には、本社と一体で「一つの事業所」と扱われることがあります。
製造業では、
- 工場
- 物流拠点
- サテライトオフィス
など拠点が多いため、「どこからどこまでを一つの事業所と定義しているか」を事前に整理しておくことが、抵触日管理の出発点になります。
事業所抵触日の通知は、派遣契約締結の“前提条件”
事業所単位の派遣受け入れにおいて、派遣先には、
派遣契約締結前に「事業所抵触日」を派遣元へ書面で通知する義務があります(派遣法第26条第6項)。
これは努力義務ではありません。
- 抵触日の通知がなければ、派遣会社は派遣契約を締結できない
- 通知を欠いたまま受け入れを行えば、派遣先が行政指導(勧告・公表)の対象となる
「派遣会社が把握しているはず」という認識は通用せず、通知義務の主体は、あくまで派遣先企業です。
意見聴取は「誰を、どう選んだか」で有効性が決まる
事業所単位の期間制限を延長するための意見聴取では、
過半数代表者の選任プロセスが最も問題になりやすいポイントです。
適正な選任には、次の要件が必要です。
- 管理監督者でないこと
- 派遣制限に関する意見聴取のための選任であることを明示
- 投票・挙手など、民主的な手続きで選出
親睦会長の流用や、信任投票のみの形式的選任は、
行政から「適正ではない」と判断されるリスクが高くなります。
派遣先管理台帳は「実態」を示す法定記録
派遣先管理台帳は、派遣先の三大義務の一つであり、単なる名簿ではありません。
必ず記載すべき事項には、次のものが含まれます。
- 派遣労働者の就業日・就業時間
- 休憩時間(交代制・変則休憩を含む実績)
- 派遣先責任者・派遣元責任者の氏名
- 苦情処理の内容・処理日数・結果
- 雇用安定措置に関する派遣元からの相談・協力状況
これらを正確に記載し、派遣終了日から3年間保存する義務があります。
特に製造現場では、休憩時間がラインや時間帯で異なるため、
始業・終業時刻だけでは実労働時間が算出できないケースが多く、行政調査でも重点的に確認されます。
「知らなかった」は、偽装請負ではほぼ通用しない
請負契約であっても、現場で派遣先が指揮命令を行っていれば、偽装請負と判断されます。
この場合に適用されるのが、労働契約申込みみなし制度です。
制度上は「善意無過失」の除外規定がありますが、製造現場において指揮命令実態を把握していなかったことが「無過失」と認められるハードルは極めて高いのが実務の現実です。
まとめ 製造派遣は“入口設計”と“記録精度”で決まる
製造派遣のトラブルは、派遣を使ったこと自体ではなく、
- 事業所の定義を曖昧にした
- 抵触日や台帳を形式的に扱った
- 現場実態を把握していなかった
という入口と体制の甘さから発生します。
派遣先として、最低限確認すべきポイントは次のとおりです。
- 事業所の範囲を、場所的独立性を軸に整理しているか
- 事業所抵触日を、派遣契約前に書面で通知しているか
- 過半数代表者の選任プロセスを説明できるか
- 派遣先管理台帳に、休憩時間・苦情処理まで正確に記載しているか
- 派遣先責任者が、現場を定期的に監督しているか
派遣法対応は、派遣会社任せにできるものではありません。
「この運用は行政に説明できるか」という視点で定期的に点検することが、結果として現場の安定と経営リスクの回避につながります。
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