派遣コラム
派遣先のコンプライアンス~派遣先企業が気を付けるべき禁止事項や責任・義務とは?~
>>ダウンロードをする
派遣先となる企業は、派遣社員に対して行ってはならない禁止事項や、責任・義務を果たさなければならない事項があります。
派遣社員は人材派遣会社と雇用関係をむすび、派遣先となる企業にて就業します。派遣社員と派遣先企業には、雇用関係はありません。
そのため、派遣社員が派遣先で業務をスムーズに遂行できるように管理する派遣先責任者が存在します。
今回の記事では、実際に派遣社員と現場で関わりのある派遣先企業のご担当者様に向けて、特に気を付けるべき5つの事項をご紹介いたします。
・【労務Q&A】最近、社会保険の『年収の壁』について報道が増えています。派遣労働者にも影響があるのでしょうか。
・【労務Q&A】パワハラと指摘されることを恐れて部下を強く叱れない。必要な指導とパワハラの境界線はどこか?
・【労務Q&A】地方労働行政運営方針が発表されました。令和6年度の行政指導の傾向はどのようなものでしょうか。
派遣先企業が遵守するべき法令とは
派遣社員と派遣先企業には、雇用関係はありません。
しかし、指揮命令権については、派遣先企業にあるのが派遣契約の特徴です。
つまり、適切な指揮命令を派遣社員に与え業務にあたらせなければならないということです。
そのため、派遣社員の保護や適正な就業場所といったことを目的として、派遣社員を受け入れる際に派遣先の企業においても下記のような遵守すべき法令があります。
派遣先が講ずべき措置(労働派遣法39条~43条)
労働派遣法では、派遣元が講ずべき措置だけではなく、39条~43条において派遣先企業が講ずべき措置が定められています。
また、この法令を遵守するための実務において確認するべきものが「派遣先が講ずべき措置に関する指針」です。
指針については2021年にも改正があり、最新の動向についても確認する必要があります。
労働基準法等の適用の特例(44条~47条の3)
労働基準法等において、原則として派遣社員との雇用関係契約のある人材派遣会社が、法令で定められた事項に対して責任を負います。
しかし、派遣社員への業務遂行上の具体的指揮命令を行うのは就業場所となる派遣先の企業となり、派遣社員が働く場所の設備や機械などの設置・管理も行っています。そのため、派遣先の事業主を対象として「労働基準法等に適用においての特例」が定められています。
派遣法や労働基準法に関連する具体的なQ&Aをご紹介しております。ぜひ、ご覧ください。
法令違反となった場合
労働派遣法や労働基準法に「違反」していると行政が判断をした場合、違反した事項の責任者となる人材派遣会社や派遣先企業に対して、「指導・助言」、「改善命令・事業停止命令」、「勧告・公表」、「許可の取り消し」等が行われる場合や、告発の対象となる場合があります。
派遣先企業が「勧告・公表」の対象となった場合は、違反した内容について厚生労働省のホームページに掲載されることがあります。その場合、企業名といった情報も公表される場合があります。企業名が公表されてしまうと、風評被害といったリスクに発展してしまう恐れもあり、このような事態を避けるためにも、法令を理解し遵守することが何よりも大切です。
それではこのような遵守するべき法令の中で
派遣社員と現場で関わりのある派遣先企業のご担当者様にとって、特に気を付けるべき5つの事項についてご紹介していきます。
派遣先企業における禁止事項
禁止事項の中でも、派遣先企業の現場において関わりの深い2つの事項をご紹介いたします。
①派遣社員個人単位の期間制限
労働派遣法では、派遣社員の受け入れ期間において個人単位での制限と事業所単位での制限を設けています。
個人単位での期間制限において、派遣先は「同じ労働者」を「同一組織」で3年を超えて、働かせることはできません。
そのため、派遣社員それぞれの就労期間について、しっかりと認識をしなければなりません。
同じ派遣社員が3年を超えて働く場合、派遣先が異なる組織であれば問題はありません。
そして下記のような場合は、事業所単位、個人単位の期間制限とも対象外となります。
・人材派遣会社で無期雇用されている派遣社員
・60歳以上の派遣社員
・有期プロジェクト業務
・日数限定業務
・産前産後休業等の代替業務
「組織」とは、いわゆる「課」や「グループ」といった単位となります。
厚生労働省の定義は下記となりますが、実態に即して個別に判断されるので、不明な点などがある場合はお近くの労働局へご相談ください。
・業務としての類似性、関連性があるもの
・ 組織の長が業務配分、労務管理上の指揮監督権限を有するもの
②派遣社員を特定することを目的とする行為の禁止
派遣先は、事前の面接や適性検査の実施・性別の限定といった派遣社員を特定しようとする行為はしてはいけません。
事前面接や試験等を通して派遣社員を決定することは、直接雇用での採用の選考と同様のフローであると認識されます。
そのため、派遣社員を特定しようとする行為は、実質的に派遣先が雇用していると推定される行為として禁止されています。
次のようなリスクがありますので、注意が必要です。
①派遣先企業が行政指導の対象となる可能性があります。対象となった場合、厚生労働省のホームページ上で公表されるリスクがあります。
②雇用関係について不透明になってしまい、派遣先企業と派遣社員の間に雇用関係があるとみなされてしまうといった、労務トラブルに発展してしまうリスクがあります。
労働契約申込みみなし制度とは?
労働契約申込みみなし制度は、派遣先企業が派遣社員に対して、
派遣契約の範囲を超えた指示を行ったり、法律で定められた禁止事項を破ったりした場合に、
自動的に派遣先企業と派遣社員の間に雇用契約が成立したとみなされる制度です。
この制度は、派遣労働者の権利を守るために設けられました。
具体的には、次のような行為が該当します。
事前面接の実施:派遣契約においては、派遣社員の個別選考は行ってはなりません。
事前に面接を実施し、派遣社員を特定しようとする行為は、労働契約申込みみなし制度の対象となります。
直接的な雇用関係の提案:派遣契約を無視し、派遣社員に対して直接的な雇用契約の申込を行ったとみなされる行為です。
これにより、派遣先企業は意図しない雇用契約が成立してしまうリスクを負うことになります。
労働契約申込みみなし制度が適用された場合のリスク
派遣先企業がこの制度に違反した場合、次のようなリスクを抱えることになります。
・自動的な雇用関係の成立
違反が発生した時点で、派遣社員との間に直接雇用契約が成立したとみなされ、
企業はその派遣社員を自社の社員として扱わなければならなくなります。
・コンプライアンス違反
厚生労働省からの行政指導や勧告の対象となり、
場合によっては企業名の公表や事業停止命令などの厳しい措置が取られる可能性があります。
・労務管理の混乱
派遣社員との雇用契約が成立した結果として、労務管理や賃金支払いの混乱が生じる可能性があります。
特に、派遣契約の延長や終了時において、派遣先と派遣元の責任の区分が曖昧になることがあります。
派遣先企業が取るべき対策
労働契約申込みみなし制度に抵触しないために、派遣先企業は以下のポイントを遵守することが重要です。
・事前面接や適性検査を行わない
派遣社員を選定する際には、事前に面接や適性検査を実施することは避け、派遣元が選定した社員を受け入れる形を徹底しましょう。
・派遣元との密な連携
派遣契約の内容を明確にし、派遣元との定期的な連携を取ることが重要です。
派遣社員に関する問題が発生した際には、派遣元を通じて対応する体制を整えておく必要があります。
・法令に基づいた契約管理
派遣契約の範囲を超える業務指示をしないようにし、すべての指揮命令を適切に行うための社内体制を整備することが求められます。
派遣先における責任と義務
③派遣社員による福利厚生施設の利用についての義務
派遣先の義務として、食堂等・休憩室・更衣室については、派遣社員に対しても利用する機会を与えなければなりません。
この義務が履行されない場合は、行政による指導・勧告・公表の対象となります。
④派遣先における労働基準法・安全衛生法の使用者責任
労働基準法や安全衛生法における、派遣社員に対しての使用者責任は、原則として派遣社員と雇用関係契約のある人材派遣会社が負うものです。
しかし、派遣先企業においても、派遣社員への業務遂行上の具体的指揮命令を行う派遣先として、下記の項目といった使用者責任を負うべき事項があります。
⑤派遣先におけるハラスメント関係の使用者責任
派遣先には、「パワーハラスメント」・「セクシャルハラスメント」・「マタニティーハラスメント」等について、使用者責任があります。
自社で雇用している社員と同じように雇用管理上・指揮命令上の配慮義務があり、ハラスメントが原因となる労災や、損害賠償請求をされてしまうリスクがあります。
派遣先における教育訓練義務とは?
派遣労働者がスムーズに業務を開始し、安全かつ効率的に働けるようにするために、
派遣先企業には派遣労働者に対する教育訓練の義務があります。
この義務は、労働者派遣法のもとで定められており、派遣社員の業務遂行や安全衛生に関わる知識を提供することが重要です。
特に製造業などの現場では、派遣社員が適切なスキルや知識を持って業務に従事できるよう、
派遣先が必要な訓練を提供することが求められます。
安全衛生教育
派遣労働者が新しい作業環境に入る際、派遣先企業はまず安全衛生教育を実施する必要があります。
特に危険が伴う業務や機械の操作に従事する場合、事故防止や怪我を防ぐために、十分な説明と指導が不可欠です。
安全衛生教育では、次の点を中心に行います。
・安全装置の使用方法
緊急時の対応手順
労働環境におけるリスク管理
保護具の適切な着用方法
これにより、派遣社員は自身を守りつつ効率的に業務に取り組むことができます。
業務に必要なスキルの提供
派遣社員が業務に取り組むために必要な技術的スキルについても、派遣先企業は訓練を提供する責任があります。
例えば、特定の機械の操作方法や業務フローに関する知識は、派遣元だけではなく派遣先が提供することで、
派遣社員が現場に迅速に適応できるよう支援することが求められます。
また、業務に関する指示やプロセスは、派遣元ではなく派遣先の企業が管理します。
したがって、業務手順や作業工程の説明も派遣先で行う必要があります。
派遣契約において気を付けるべきポイント
派遣社員に対して行ってはならない禁止事項や、責任・義務の事項から5つをご紹介いたしました。
これらの事項は、派遣先企業様において、実際に派遣社員と現場で関わる中でも、気を付けていただきたいポイントです。
そして同じ現場で働く上で、派遣社員の雇用関係についてもしっかりと理解した上でコミュニケーションをとる必要があります。
派遣社員との雇用関係にあるのは人材派遣会社
派遣社員は人材派遣会社との雇用関係の上、派遣先へ就業します。
業務上の指揮命令関係は派遣先となりますが、派遣先企業との間に雇用関係はないということに注意が必要です。
例えば、派遣先企業が直接派遣社員に対して、雇用契約の期間満了を伝えてはなりません。
雇止めは雇用主の権限として、人材派遣会社と派遣社員の間で行うものであり、派遣先にはその権限がないためです。
派遣社員の契約期間満了については、雇用主が「1か月前」に派遣社員に伝える必要があるため、派遣先の要望として雇用主となる人材派遣会社に伝える場合は期間に余裕を持ちましょう。
フジアルテとしての取り組み
フジアルテでは、コンプライアンスを事業の最重要事項のひとつと位置づけ基本方針を定めています。
また、派遣先企業のご担当者様にむけた取り組みとして、「無料セミナー」や「法務セミナー」などを実施しています。
無料セミナーの実施
フジアルテでは、製造業の人事・労務・派遣の実務ご担当者にむけた無料セミナーを実施しています。
労働者派遣法の基礎から実務に至るまでのポイントといったコンプライアンスについての内容や、製造業派遣に関わる様々なテーマを取り上げています。
気になるテーマがありましたら、ぜひご参加ください。
法務セミナーの実施
フジアルテの派遣先企業様に向けた「法務セミナー」を実施しています。
従業員の方へのアンケートの実施や事前のヒアリング等から各企業様の現状を把握させていただき、実際にあった事例や気を付けるべき点についてお伝えする啓発型のセミナーです。労働者派遣法改正の動向、外部人財活用のポイント、トラブル防止・コンプライアンス体制の構築に向けた取組み事例の紹介などはもちろん、人財活用・予防法務における実践的なご提案や情報を発信しています。
ご担当者様のご相談の上、内容を決定し、企業様の課題に合った形で実施するため、実務でもお役立ていただきコンプライアンスへの取り組みとしてご活用いただけます。
まとめ
今回は、派遣先の企業として気を付けるべき禁止事項や責任・義務についての項目をいくつかピックアップしご紹介いたしました。
派遣社員の方と安心で安全な関係を構築するためにも、自社のコンプライアンスについて振り返るきっかけとしてぜひご活用ください。
ダウンロードする
製造業の人事・労務の最新情報をメルマガで
いち早くお届けします!
- 人材派遣の業界ニュース、関連法案の見解
- 労働問題のお悩みに専門家が詳しく回答
- コンプライアンス・セミナーの開催情報