労務管理Q&A
派遣先に「労働契約申し込みみなし制度」が適用された事例はあるのか 必ず派遣労働者を雇用しなければならないのか
ご質問内容
2月号で「派遣先事業所単位抵触日の延長が無効であった場合は、労働契約申し込みみなし制度が適用される」と説明されていました。
「労働契約申し込みみなし制度」が実際に適用された例はありますか。派遣先は必ず派遣労働者を雇用しなければならないのですか?
専門家からの回答
「労働契約申し込みみなし制度」は、労働者派遣法第40条の6に定められている制度です。
労働者派遣法に違反する特定の事象があった場合に、派遣先がその時受け入れている派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなして、希望する派遣労働者を直接雇用する制度です。
労働契約申し込みみなし制度はどんな時に適用されるのか
労働契約申し込みみなし制度は、次の①~⑤のような労働者派遣法に違反する行為が発生したとき適用されます。
① 適用除外業務(派遣労働者に従事させることが禁止されている業務)に派遣労働者を就労させたとき
② 無許可事業者から派遣労働者を受け入れたとき
③ 派遣労働者個人単位の抵触日以降に派遣労働者を受け入れたとき
④ 派遣先事業所単位の抵触日以降に派遣労働者を受け入れたとき
⑤ 偽装請負により受け入れた労働者を指揮命令下で就労させたとき
ただし、派遣先が①~⑤にあたることを知らず、かつ知らなかったことに過失がなかったときは、労働契約申し込みみなし制度は適用されません。
例えば労働者派遣を行っている期間中に、派遣元の労働者派遣事業の許可有効期間が失効したのに、派遣元から派遣先にその旨を伝えなかったため上記 ② に該当した場合は、「派遣先が違反の事実を知らず、かつ過失がない」ので、「労働契約申し込みみなし制度」は適用されないと考えられます。
実際に派遣労働者に労働契約書を発行していなくても労働契約が成立する
派遣先から派遣労働者に実際に労働契約書を手渡す等の実務を行わなくても、法律上、派遣先から派遣労働者に「あなたが希望すれば当社で雇用します」と通知したのと同じ効果が発生します。
いわば「バーチャル内定通知書」が自動的に発出されたと想像するとよいでしょう。このため、派遣労働者が派遣先に雇用されたいと希望するとただちに労働契約が成立します。
派遣先が派遣労働者を雇用することができない場合はどうしたらよいのか
現在、当社の事業はコロナ感染症の影響によって低迷しており、とても労働者を新たに雇用していく余裕がありません。派遣労働者を直接雇用できない時はどうしたらよいのでしょうか。
まずは丁寧に事情を説明し、派遣労働者に合意を得て、雇用を辞退いただくことが考えられます。
派遣労働者が雇用されることを希望しているのに、派遣先の都合で「成立したとみなす労働契約を破棄する」ことは、個別に訴訟によってその有効性を問うことになりますが、内定取消や解雇に準じて取り扱われると考えられます。
つまり、「客観的に合理的な事由を欠き、社会通念上相当」ではない「成立したとみなす労働契約の破棄」は無効と解される可能性があり、紛争になった場合は金銭を支払って和解する方法が想定されます。
実際に、偽装請負の労働者を直接雇用することなく納得のいく説明もないまま契約を解消し、後に多額の支払いを命じられた例を紹介します。
実際に「労働契約申し込みみなし制度」が適用された事例
兵庫県内で住宅建材を扱うT社において、偽装請負を告発するユニオンに労働者が加入しT社に直接雇用を求めて提訴した事案では、裁判所が20年以上にわたりT社と原告労働者らが偽装請負にあったと認定し、既に雇用が終了していた原告労働者らを「労働契約申し込みみなし制度を適用しT社の雇用労働者の地位にある」ことを確認、さらに雇用終了時から判決までの「未払い賃金」も支払うよう命じました(2021年11月4日/大阪高裁)。
この事件は、わが国で初めて労働者派遣法第40条の6を直接適用した事件として注目されています。
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