1. 地方労働行政運営方針が発表されました。令和6年度の行政指導の傾向はどのようなものでしょうか。

労務管理Q&A

2024.04.16

地方労働行政運営方針が発表されました。令和6年度の行政指導の傾向はどのようなものでしょうか。

ご質問内容

そもそも地方労働行政運営方針とは何でしょうか。
またどのような視点でこれを読み解けばいいのでしょうか。

専門家からの回答

地方労働行政運営方針は、厚生労働大臣から都道府県労働局長あてに、都道府県労働局がその年度に取り組むべき行政課題について通達したものです。
したがって、年度のはじめに地方労働行政運営方針を読むことで、労働基準監督署等が何を重点的に指導するかを予測することができます。

トップは「中小企業の賃上げ」「非正規の待遇改善」

昨年度の最低賃金の改定により、最低賃金の全国加重平均が1,004円となりました。

政府は2030年代半ばに最低賃金の全国加重平均1,500円を目標とする旨を明らかにしています。

労働局及び労働基準監督署においては、各事業場を訪問した際に、賃金の確認のみならず、内閣官房及び公正取引委員会が策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を周知し、価格転嫁対策を推進するとしています。

現在の政権は、労働基準監督署を利用して事業場へ様々な働きかけをすることを好む傾向にあり、これまでの指導監督という役割から地域の賃金情報の提供のような労務改善のための情報提供の役割まで担わせようとしています。

このため、労働基準法や労働安全衛生法といった従来の労働基準監督官による指導監督のための法令に基づく調査はもちろんのこと、啓発的な事業場訪問等も増加することが見込まれます。

また、賃上げと併せて「非正規労働者の待遇改善」「同一労働同一賃金」についても、都道府県労働局の雇用環境・均等部(均等室)による報告徴収を行って、短時間・有期雇用労働法に基づく是正指導を行う旨を明らかにしています。

したがって、労働行政の職員が事業所(事業場)を訪問した際は、所管の法令のみならず、労働行政が総合的にすすめている施策についてのヒアリングも同時に行われることになる可能性が髙いでしょう。

同一労働同一賃金と派遣労働者

直接雇用される短時間労働者や有期契約労働者は、短時間・有期雇用労働法に基づき「通常の労働者と比べて不合理な待遇の相違はないか」の対象になります。

しかし派遣労働者は、労働者派遣法に基づき「派遣先均等・均衡式」「派遣元労使協定式」のいずれかの方式で、待遇を改善することになっています。

① 派遣先均等・均衡方式

全体として、この方式によって派遣労働者の待遇を決定している派遣元事業所は少ないのですが、調査の対象となった場合は、派遣先において「比較対象労働者」の選定が適切かどうかが問われます。

② 派遣元労使協定方式

圧倒的にこの方式によって派遣労働者の待遇を決定する派遣元事業所が多くなっています。

派遣元事業所において締結される労使協定によって派遣労働者の賃金が決定されるので、派遣先にとっては①のように比較対象労働者を選定する手間が省けます。

ただし、派遣元労使協定方式であっても、以下は派遣先において「派遣労働者と同様の業務に従事する通常の労働者」と比較し均等・均衡を図る必要があります

○ 福利厚生施設(食堂、更衣室、休憩室)

○ 派遣労働者の職務に関連した教育訓練

リ・スキリングの促進

もともと欧米においてジョブ型(特定の職務に特化して雇用し別の職域への異動を前提としない)雇用により、すたれていく産業(配置転換がないジョブ型労働者は失業が予測される)にかわって人手が不足する産業へと労働移動を容易にするために「学びなおして労働移動のためのスキルを身につける」という意味でリ・スキリングという言葉が誕生しました。

ジョブ型雇用が少ないわが国ですが、例えば転職や転籍を前提にシニア層などを長期に休職いただいて資格取得の教育機関にて勉強いただくようなことが想定されています。

また、長期に労働から離れていた育児世代や家族の介護を行う求職者についても積極的に人手不足の職域(医療・介護・福祉関係等)での雇用が促進されるように、公的職業訓練(ハロートレーニング)の充実などがはかられます。

雇用保険の適用対象拡大の見通し

なお、地方労働行政運営方針とは別に、労働政策審議会雇用保険部会では「雇用保険被保険者となる週の所定労働時間を現在の20時間以上から10時間以上へと拡大することがのぞましい」旨のとりまとめを行いました。

この改正は令和10(2028)年度から適用される見通しとなっています。

短い時間で労働する者への適用実務は、雇用主に負担となることが予想されますが、派遣労働者については派遣元事業所において適正に管理することになりますので、短時間派遣労働者の雇用保険適用状況は派遣元にご照会ください。

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