1. 派遣労働者が派遣先で不正アクセスし機密情報を閲覧していました。 派遣労働者の不正で損害が発生した場合、派遣元に責任を問えますか。

労務管理Q&A

2024.11.19

派遣労働者が派遣先で不正アクセスし機密情報を閲覧していました。 派遣労働者の不正で損害が発生した場合、派遣元に責任を問えますか。

ご質問内容

受け入れた派遣労働者が、自らの業務に無関係の機密情報にアクセスして、情報を収集していたことが判明しました。派遣労働者の不正で損害が発生した場合は、派遣元に責任を問い、損害賠償請求をしたいのですが可能でしょうか。

専門家からの回答

派遣労働者の不正については、派遣元に責任を求めることが可能な場合があります。

ただし、日常的には派遣労働者は派遣先の指揮命令下で就業しているため、派遣先の管理不足で発生した事案については、派遣先の管理不足との過失相殺となることもあります。

派遣労働者の不正や不適切な行為を防止するためには、派遣労働者の身元確認をしっかり実施している派遣元から派遣労働者を受け容れるようにしてください。また、労働者派遣契約に附帯して機密保持契約などを締結することもおすすめです。

行政法における派遣元と派遣先との責任分担

派遣労働者を雇用しているのは派遣元事業主ですが、派遣労働者は派遣先の指揮命令下で就業しています。

このため、労働者派遣法では、労働基準法や労働安全衛生法などの一部の条項について、派遣先を派遣労働者の使用者として責任を課す旨を定めています。

例えば派遣労働者の労働時間を把握し記録する責任(労働基準法第32条)や、受け入れた派遣労働者の人数も含めて衛生管理者を選任すること(労働安全衛生法第12条)などは、派遣先を「使用者」「事業者」として法律を適用することになっています。

このように、あらかじめ整理されている行政法上の責任分担は、法の定めにより、派遣元または派遣先がそれぞれ担います。

民法における使用者の責任

行政法と異なり、民法では、派遣先と派遣元との責任分担が定められておらず、個別の訴訟ごとに判断されているのが実情です。

ここでは、ベルシステム24事件(平成15年10月東京地裁判決)を参考に、使用者責任と過失相殺について、考えていきます。

本事件の派遣先は、NTT東日本から、光回線の訪問営業の業務を請け負っていました。

派遣先は、派遣元である株式会社ベルシステム24から派遣労働者を受けいれ、当該光回線訪問営業に従事させていたところ、派遣労働者が実際には顧客からが依頼がなかったにもかかわらず業務用に閲覧した個人情報をもとに光回線申込書を偽造、営業成績優秀につきインセンティブ給与を受け取っていたことが判明しました。

顧客からNTT東日本に対する問合せで派遣労働者の不正が発覚し、派遣先はNTT東日本から業務請負契約を解除され約2,700万円の損害が発生しました。

派遣先は、民法第715条「使用者責任」を根拠に、派遣元に対し2,700万円の損害賠償請求をしました。

法第715条第1項

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

この事件では、「ある事業のために他人を使用する者」が派遣元、被用者が派遣労働者、第三者が派遣先にあたります。

裁判では、派遣労働者の筆跡で複数の申込書が提出されていたにもかかわらず、派遣先がよく点検しないまま放置していた点について「管理に落ち度があった」(派遣先に過失があった)として、請求された2,700万円のうち派遣先の過失を相殺し、派遣元が賠償すべき額は5割(1,350万円)と判断しました。

不正や不適切行為の防止のために

このような派遣労働者の不正を防止するためには、まず、派遣元が派遣労働者の身元をしっかり確認していることが大切です。その上で、労働者派遣(個別)契約に附帯して、派遣元と派遣先とで機密保持契約の締結を行い、派遣労働者には機密保持誓約書の提出を求めるなども有効です。

また、派遣労働者を受けいれるにあたり「立入禁止の場所」「情報へのアクセス権限」「スマホ持込禁止」などの「受け入れ時教育」を行い、理解を促進することも必要です。

これからの派遣労働者の受け入れにあたり、派遣会社と機密保持契約の締結や派遣労働者への教育内容について、確認されてはどうでしょうか。

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