1. 派遣労働者の賃金水準を決める職業安定局長通達が発出されました。 まもなく最低賃金も改定されます。人件費はこれからどうなるのでしょうか。

労務管理Q&A

2025.09.17

派遣労働者の賃金水準を決める職業安定局長通達が発出されました。 まもなく最低賃金も改定されます。人件費はこれからどうなるのでしょうか。

ご質問内容

派遣労働者の賃金水準を決める職業安定局長通達が発出されました。
まもなく最低賃金も改定されます。人件費はこれからどうなるのでしょうか。

専門家からの回答

政府の経済施策を議論する「新しい資本主義実現会議」では、今後5年間で「物価上昇を年1%程度上回る賃金上昇を賃上げのノルム(社会通念)として我が国に定着させる。」と決定していますので、今後も物価に連動し、直接雇用または派遣労働者の如何によらず人件費は上昇することが見込まれます。

政府の長期的経済施策における賃金

首相や閣僚が入れ替わっても中長期に一貫した経済施策が実施されるよう、首相を議長として必要な閣僚や民間の専門家を構成メンバーとし、施策を議論するための会議体が設置されています。
現在設置されているのが、岸田前首相から現首相に継承されている「新しい資本主義実現会議」です。この会議では「成長と分配の好循環」を掲げており、継続して分配(賃金)を引き上げることを提言しています。具体的には、2029年度中に最低賃金の全国加重平均を1,500円にすることを目標として明示しています。
令和7(2025)年10月の改定によって最低賃金の全国加重平均は1,118円(昨年度改正時点で1,055円)ですから、最低賃金は、これから毎年6~7%程度の上昇が見込まれており、特に時給で働く非正規労働者については、この最低賃金の上昇に連動して毎年人件費が上昇し続けることが想定されます。

職業安定局長通達による派遣労働者の賃金水準決定

派遣労働者の待遇は、「派遣先均等・均衡方式」「派遣元労使協定方式」のいずれかにより決定することになっています。
「派遣元労使協定方式」では、派遣労働者が従事する職業と同じ職業に従事する全国の
労働者の賃金水準を参考に、派遣労働者の賃金を決定します。この「全国の労働者の職業
別賃金水準」を通知するのが、職業安定局長通達です。
令和7(2025)年8月25日に発出された通達で示される賃金水準のうち、賃金構造基本統計調査を基本とした賃金データは、調査対象となった全国の事業場の令和6
(2024)年6月現在の賃金を反映したものです。
また、職業安定業務統計は、同様に令和6(2024)年4月~令和7(2025)年3月までに全国のハローワークで受理した求人における賃金情報を基本とした賃金データとなっています。
これら2つの賃金データをもとにした派遣労働者の新賃金を決定する労使協定は、令和8(2026)年4月から適用されますので、実質、2年遅れで派遣労働者の賃金に反映されることになっています。

例えば、電気機械組立工(職業安定業務統計における職業番号07402)の、基本時給額の変遷を見てみましょう。

待遇の規定による賃金データ 派遣労働者の賃金に適用される年度 基本時給額
(円) 対前年比(%)
令和4年度の賃金水準データ 令和6年度 1,068
令和5年度の賃金水準データ 令和7年度 1,107 3.7
令和6年度の賃金水準データ 令和8年度 1,149 3.8

この基本時給額とは、理論値上の初任給にあたりますが、全国平均値のため、実際に派遣労働者に適用する際はこの数字に地域指数(地域によって経済水準が異なるためこれを修正するための指数)を乗じます。また、その地域偏差を修正した後の数値が最低賃金を下回っている場合は、これを最低賃金に修正します。
電気機械組立工の派遣労働者に適用される賃金水準については、最低賃金の上昇率よりもややおだやかに上昇していますが、これは正規/非正規を問わずあらゆる労働者の求人時の初任給を情報源としているためです。

今後の対応

人件費の高騰を受けて、派遣先として考えられる対策は、①機械化・省力化、②派遣労働者をはじめとした製造作業従事者の多能工化の促進、③請負契約への転換、などです。
①については設備投資となりますので、すぐに実現できる場合とそうでない場合があるでしょう。
②については、人手不足の折、限られた人員で効率よく現場がまわっていくように、平素から多能工育成のための教育をすすめていくことは可能です。一般作業員と多能工との間で待遇の差別化(例えば手当付与や時給の増額)をはかることで、労働者の学習意欲を引き出すような工夫も考えられます。
③については、かつて「偽装請負」など不適切な請負事業を行政が積極的に指導していたため、一時的に敬遠されていた傾向もありますが、労働者派遣事業のように「人単価」ではなく「成果物単価」で契約がされることから、再び見直されつつあります。
フジアルテでは、派遣/請負いずれの契約方式が派遣先の現場に適しているかのご相談、派遣から請負への切り替え(またはその逆)についてのご相談に対応しておりますので、気になることがあれば是非、お問い合わせ下さい。


最低賃金は今後も年6〜7%の上昇が見込まれ、派遣労働者の賃金水準にも反映されます。
人件費高騰への対応には、多能工育成や請負活用など、現場に応じた柔軟な選択が重要です。
無料

製造業の人事・労務の最新情報をメルマガで
いち早くお届けします!

メルマガ登録をすると、過去の「労務管理Q&A」も会員専用ページにて全てご覧いただけます。
  • 人材派遣の業界ニュース、関連法案の見解
  • 労働問題のお悩みに専門家が詳しく回答
  • コンプライアンス・セミナーの開催情報