1. 受け入れた派遣労働者も多能工に育成したいと考えています。派遣労働者に派遣先の様々な業務を体験してもらうことは可能ですか?

労務管理Q&A

2025.10.17

受け入れた派遣労働者も多能工に育成したいと考えています。派遣労働者に派遣先の様々な業務を体験してもらうことは可能ですか?

ご質問内容

受け入れた派遣労働者も多能工に育成したいと考えています。
派遣労働者に派遣先の様々な業務を体験してもらうことは可能ですか?

専門家からの回答

派遣労働者が従事する業務は、労働者派遣契約書で定めており、その内容は派遣元と派遣労働者との間で締結する労働契約の内容にも反映します。このため、契約期間中に別の業務に従事させることは契約違反になると考えられます。しかし、「教育訓練」の一環として、派遣先内で様々な業務を体験することは可能です。

直接雇用する労働者と派遣労働者との違い

労働契約の内容は、労使の合意で変更することが可能です(労働契約法第8条)。

したがって、派遣先が直接雇用する労働者に対し、「現在従事する業務以外の業務もできるようになってほしいから、来月から別のラインで働かないか」と労働条件変更(従事する業務の内容の変更)を提示し、労働者がこれに合意すると労働条件変更は有効に成立します(書面に記載しなくても口頭で変更契約は成立します)。

一方、労働者派遣においては、まず派遣元と派遣先との間で労働者派遣(個別)契約が締結され、契約書に「派遣労働者の就業の場所、従事すべき業務の内容および責任の程度」を記載しなければなりません。

また、派遣元と派遣労働者との間で締結する労働契約書や、労働者派遣法で書面交付(派遣労働者の合意でFAX・電子メール可能)が義務付けられている就業条件明示書にも、労働者派遣(個別)契約書に記載された「派遣労働者の就業の場所、従事すべき業務の内容および責任の程度」が記載されています。

したがって、派遣労働者が現在の業務とは別の業務に従事するためには、まずは労働者派遣(個別)契約書内容を変更し、続けて派遣元と派遣労働者との間で締結している労働契約書の内容の変更、就業条件明示書の変更が必要です。

このため、労働者派遣契約期間中の労働条件の変更(派遣労働者が従事する業務の変更)は、難しく、変更する場合は契約を変更する煩雑な手続を要します。

派遣労働者のキャリアアップのための教育訓練

ところで、派遣元事業主は、「派遣労働者のキャリアアップに資する計画的・体系的な教育訓練」を実施することが義務づけられています。

労働者派遣事業の許可は、許可有効期間(初回3年間、以降5年間)を更新する制度になっており、その都度、都道府県労働局が「派遣元は適正な事業運営をしているかどうか」を審査するしくみになっています。

この「派遣労働者のキャリアアップに資する計画的・体系的な教育訓練」の実施も、許可有効期間更新における審査事項となっており、派遣元事業主にとっては大変重要なコンテンツです。

派遣元事業主は、派遣労働者の入職から3年間は、毎年8時間以上かつ労働契約期間中に労働時間として(すなわち有給で)教育訓練を実施する義務が課されています。
勤続4年目以降は年間8時間という訓練時間の規制はなくなりますが、教育訓練は実施することが必要です。

この教育訓練は、以下のような構成となっており、労働者派遣事業の許可または許可有効期間更新の際に、詳細な訓練メニューを厚生労働大臣に書面で提出することになっています。

① 入職時訓練(新入社員教育)、派遣開始に備える訓練
② 職能別訓練(従事する業務に必要な訓練)
③ 職種転換訓練(派遣先の変更、従事する業務の変更に備える訓練)
④ 階層別訓練(勤続年数や職位による訓練)
⑤ その他の訓練

このうち注目すべきは、「③職種転換訓練」です。

OJTのある訓練を利用して派遣先内インターンシップ

前出の教育訓練は、座学だけではなく、働きながら実務で知識と技術を習得するOJT(On the Job Training、実習)も含まれています。

職種転換訓練は、これまで従事したことがない業務に従事するための教育訓練です。

派遣元と派遣先とで協議し、この職種転換訓練を利用して、派遣労働者に派遣先の構内で様々な業務を「OJTにより体験」してもらうことが可能です。

つまり、労働者派遣(個別)契約の内容を変更することなく、あくまでも教育訓練の一環として、別のラインの業務を体験するということです。「派遣先内のインターンシップ」とも言えましょう。

体験ですから期間を決めて一旦終了し、その後、派遣労働者の希望も聞きながら正式に契約を変更して別の業務に円滑に異動いただくプロセスとなります。

派遣元にとっては、派遣期間中にOJTにより教育訓練が実施できるメリットがあります。

派遣先にとっても、受け入れた派遣労働者が「今の業務に適していないかも」と感じる時に、派遣労働者を派遣先内の別の業務に配置できるかどうかを見極められるメリットがあります。

抵触日がある派遣労働者にとっても、事前に体験して「これなら自分にあっている」と感じた業務に契約変更できるなら、抵触日後に仕事がなくなる心配がありません。

フジアルテでは、平素より派遣労働者の教育訓練を計画的に実施しています。

「派遣先内のインターンシップ」を通じて派遣労働者の多能工化をお考えの派遣先は、ぜひご相談下さい。
派遣労働者の教育訓練や配置転換ついてご質問がある場合は、営業担当にお問い合わせ下さい。


派遣労働者が契約内容に定められた業務以外の業務に従事することは難しいですが、教育訓練の一環として派遣先内でさまざまな業務を体験してもらうことは可能です。
職種転換訓練を活用したOJT(派遣先内のインターンシップ)を通じて派遣労働者を多能工に育成することで、派遣元・派遣先・派遣労働者それぞれにメリットがあると考えられます。

この記事の監修者

写真:田原 咲世氏
田原 咲世 氏(たはら さくよ)
  • 北桜労働法務事務所 特定社会労務士
  • 株式会社北桜戦略人財研究所代表取締役社長
  • 株式会社北洋銀行 社外取締役監査等委員
プロフィール
平成6年4月、旧労働省入省。鹿児島労働局、本省、北海道労働局にて需給調整指導官等を歴任。
平成20年3月に厚生労働省を辞職、札幌に北桜労働法務事務所を開設。
行政経験を活かし、人材ビジネス分野を中心に労務全般に強い社会保険労務士としてコンサルティングを行っている。
公式HP
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