1. わが社では感染症に罹患した社員の出社を禁止しています。 派遣労働者についても同様に出勤を禁止したいのですが可能ですか。

労務管理Q&A

2024.12.24

わが社では感染症に罹患した社員の出社を禁止しています。 派遣労働者についても同様に出勤を禁止したいのですが可能ですか。

ご質問内容

インフルエンザなどの感染症が流行する季節となりました。

わが社では、感染症に罹患した社員については、職場に感染をひろげないよう、出社を禁止しています。派遣労働者が感染症に罹患した際にも、社員と同様に就業を禁止することができますか。その際、派遣会社は派遣労働者に休業手当などを支払うのですか。

専門家からの回答

感染者による出社禁止は、3つの法律の観点から整理が必要です。

第1に、感染症法に基づき行政が罹患者に就業を禁ずる場合です。
第2に、感染症法では就業禁止対象とならないものの、労働安全衛生法第68条に基づき事業者が病者の就業を禁止する場合です。
第3に、労働基準法第26条の定めに照らし、これらの就業禁止が事業主の責に帰すべき事由であるかどうかの検討です。

感染症法による就業禁止

感染症法(正式名称:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は、感染症のまん延を予防し、また罹患した患者への適切な医療措置に関する内容を定めた法律で、危険性の高い感染症から順にⅠ~Ⅴ類に分類されています。

グレーの色がついた部分が、当該感染症に対する行政の措置です。

分類のうちⅠ~Ⅲ類は、この法律により就業禁止対象となっており、感染者を診察した医師が行政機関(保健所)にこれを届出、行政機関が本人に出社による就業を禁止します。
次に説明のとおり労働安全衛生規則では、在宅ワークなど周囲への感染のおそれを防止して就業機会を奪わないことを推奨しており、この表現になります。

Ⅳ・Ⅴ類は、行政により就業が禁止されず、医師から「周囲への感染防止のため出社しないで下さい」と助言を受けますが、出社を禁止する法的な強制力はありません。

労働安全衛生法による病者の就業禁止

(病者の就業禁止)

第68条 事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。

※労働安全衛生法では、事業を行い労働者を使用する者を「事業」者と定義し(同法第2条)、株式会社や有限会社では法人そのもの、個人事業では経営者個人を意味しています。

労働安全衛生法では、事業者に対し、厚生労働省令で定める疾病に罹患した者の就業を禁止するよう課しています(労働者に直接、就業禁止を命ずる条文ではありません)。

前に記載した感染症法Ⅰ~Ⅲ類は、感染症法によって出社による就業が禁止されますので、ここでは感染症法Ⅳ・Ⅴ類や、感染症法が適用されない疾病が対象です。

このうち省令で定める伝染性の疾病とは、行政通達(昭和47年9月18日基発第601号の1)において「病毒伝ぱのおそれのある結核、梅毒、淋疾、トラコーマ、流行性角膜炎およびこれに準ずる伝染性疾患」と例示しています。

季節性インフルエンザ、百日咳、2023年5月8日からⅤ類となったコロナもこの解釈通達の伝染性疾患にあたると解されますので、就業を禁止することになります。

ただし、労働安全衛生規則第61条第1項但書では、「伝染予防の措置をした場合はこの限りではない(就業は禁止しなくてよい)」と定めており、例えば在宅勤務など可能な限り就業の機会を失わせないよう定めています。

また、同規則第61条第2項では、「事業者は、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない」と手続を定めていますので、「季節性インフルエンザなら発熱日から5日間は病休のこと」のように診断書不問で一律に出社禁止をルール化するのは、この規則に基づく出社による就業の禁止手続としては厳正さに欠けることになります。

労働基準法第26条による休業手当

(休業手当)

第68条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

それでは、今まで見てきた伝染性の疾病について就業規則で出社禁止とした場合、当該病気休業期間に休業手当を支払う必要があるのでしょうか。

休業手当を支払う必要があるのは「使用者の責に帰すべき事由による休業」に限ります。裏を返すと「使用者の責に帰すべき事由」ではない休業に対する休業手当は不要です。

感染症法に基づく出社による就業の禁止は、「使用者の責に帰すべき事由」ではなく行政措置のため、感染症法Ⅰ~Ⅲ類により休業した労働者への休業手当支払は不要です。

他方、感染症法Ⅳ・Ⅴ類や感染症法の適用を受けない疾病については、労働安全衛生法第68条に基づき(行政ではなく)事業者が労働者に就業禁止を命ずることになります。ただし、同条では休業中の賃金について定めがないため、各社で就業規則や労働契約書に定めることになり、何の定めもない場合はその都度判断していくことになります。

もっとも、労働者(感染者本人)が労働できる体調ではないので休業を申し出た場合は「使用者の責に帰すべき事由」ではなく労働者の自己都合の休業ですから、ノーワークノーペイの原則に基づき、休業手当を支払わなくても法違反とはなりません。

問題は、感染者が「熱もさがったので出社して働きたい」と申し出たものの、就業規則で出社による就業を拒む場合の取扱です。
労働基準法第26条違反か否かは個別に申告した労働者の案件につき、労働基準監督署が判断しますが、このような場合は「使用者の責に帰すべき事由」による休業と判断される可能性が高いでしょう。

なお、すべての休業につき労働者の意向で年次有給休暇を充てることは可能です。

派遣労働者の就業を制限する場合

派遣労働者の就業制限や休業手当は、雇用主である派遣元事業主が決定します。

このため、派遣先で伝染性疾病に罹患した派遣労働者の派遣就業を制限したい場合は、派遣先と派遣元との間で労働者派遣契約に附帯して特約を設け、どのような場合に派遣就業を拒むのか、派遣料金はどうするのかを決めた方がよいでしょう。

派遣元事業主は、特約に基づいて派遣労働者となろうとする者に労働条件を提示し、これに同意した派遣労働者が派遣就業するので、トラブルの防止につながります。

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