労務管理Q&A
津波警報が発令されたので、派遣労働者を含む従業員に避難を命じました。 派遣労働者への避難命令は適切ですか?また、派遣料金はどうなりますか?
ご質問内容
津波警報が発令されたので、派遣労働者を含む従業員に避難を命じました。 派遣労働者への避難命令は適切ですか?また、派遣料金はどうなりますか?
専門家からの回答
天災地変において命を守るための命令は、通常の労働者派遣契約に基づく業務上の指揮命令と異なるので、派遣元の了解を得ずともただちに命令することが適切です。派遣先は、受け入れた派遣労働者に対する安全配慮義務がありますので、危険がさしせまっている場合は速やかに避難を命じてください。
警報と避難指示
2025(令和7)年7月30日の朝、日本のはるか北に位置するカムチャツカ半島の近海で、M8.8の巨大な地震が発生したことに伴い、気象庁は国内のひろく沿岸部に津波警報を発令、対象地域の住民や事業場の従業員は一斉に避難しました。
日本では毎年のように自然災害により多くの被害が生じていますが、これまで気象庁から発表される災害情報が理解しづらいという指摘を受け、政府は2019(令和元)年6月に防災情報を5段階の警戒レベルを用いて発信することにしました。
下図のレベル1~2は気象庁による情報提供と注意喚起、レベル3~5は市町村の発令になりますが、2021(令和3)年5月にレベル5による避難を廃止し「レベル4までに全員避難が原則」となりました(レベル5は既に災害が発生している可能性が高いため、避難のためむやみに動かずその場で可能な緊急安全確保となりました)。
レベル3以上では市町村による避難の命令となりますので、罰則などはありませんが、対象地域の住民や事業場は避難する必要があります。
高齢者だけではなく、例えば障がい者や傷病により素早く移動ができない労働者もいますので、レベル3未満でも対応が必要なケースを想定することが望ましいです。
派遣労働者と安全配慮義務
労働契約法第5条では、安全配慮義務について、使用者は「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めています。
安全配慮義務は、原則として労働者を雇用する使用者の問題ですが、派遣先も、派遣労働者受け入れ中は当該義務に関係があります。
東日本大震災の際、自治体の指示する高台へ避難するよう命令しなかった金融機関支店に対し、津波被害で死亡した労働者らの遺族から損害賠償請求がされた裁判では、「労働者派遣契約を締結して当該支店に派遣され、業務上の指揮命令権を行使して労務管理を行っていたのであるから、信義則上、派遣先に安全配慮義務がある」と判示されました。
このようなことから、命と安全のための命令は、自社従業員はもちろん、受け入れた派遣労働者や、下請け事業者の従業員、一人親方らに対しても、躊躇なく発するべきです。
請負労働者に避難を命令したからと言って「偽装請負」にはあたりません。
就労しなかった時間の派遣料金は
安全のため自宅待機や避難となったため派遣就労しなかった時間に対する派遣料金は、法律に定めがありませんので、派遣元と派遣先との間で協議して決定します。
派遣労働者としては、派遣元や派遣先の指示で就労しなかったのだから、何らかの補償があるのではないかと期待することがあるかもしれません。
労働基準法第26条では「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたる場合、使用者は労働者に対して休業1日につき平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払う義務があると定めています。
ただし、レベル3以上は事業主の判断ではなく行政の命令であるため、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しません。
このようなことから、一般的に行政の命令によって避難したため就労しなかった時間については、派遣元に休業手当の支払義務が発生せず、派遣先に派遣料金を請求することもないと考えられます。
しかしながら、先に例示したように障がい者や傷病者に早めに自宅待機や避難を命じた場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当することもあります。
労働者派遣基本契約の締結時には、災害等によって臨時に休業する場合の手順ほか、料金についての特例も覚書などで定めておくとよいでしょう。
派遣労働者の受入ガイダンスとして、災害時の避難発令の方針などを説明しておくと混乱を避けられるので、よりよいでしょう。

行政命令による避難は派遣料金・休業手当の支払い義務なし。
ただし、事業主の早期避難命令は支払い義務が発生する場合あり。
この記事の監修者

- 北桜労働法務事務所 特定社会労務士
- 株式会社北桜戦略人財研究所代表取締役社長
- 株式会社北洋銀行 社外取締役監査等委員
- プロフィール
- 平成6年4月、旧労働省入省。鹿児島労働局、本省、北海道労働局にて需給調整指導官等を歴任。
平成20年3月に厚生労働省を辞職、札幌に北桜労働法務事務所を開設。
行政経験を活かし、人材ビジネス分野を中心に労務全般に強い社会保険労務士としてコンサルティングを行っている。
公式HP
製造業の人事・労務の最新情報をメルマガで
いち早くお届けします!
- 人材派遣の業界ニュース、関連法案の見解
- 労働問題のお悩みに専門家が詳しく回答
- コンプライアンス・セミナーの開催情報


