労務管理Q&A
中高年齢の派遣労働者の傷病が増加している。派遣労働者の年齢をあらかじめ知って対策を講じたいが可能か。
ご質問内容
当社は派遣先です。最近、受け入れる派遣労働者の年齢が高くなってきたような気がします。それとともに、業務中に小さな段差につまずいて転倒したり、何気ない動作で急性腰痛(ぎっくり腰)を発症する者が増加傾向です。
派遣労働者の年齢をあらかじめ知ることはできないのでしょうか。
専門家からの回答
派遣労働者の年齢は個人情報のため、原則として本人が開示しない限り派遣先は知ることができません。
ただし、労働者派遣開始にあたって、派遣元事業所から派遣先に派遣労働者の氏名等に関する通知が行われますので、年齢に関する一定の情報を得ることができます。
派遣元事業所から派遣先へ提供される個人情報
派遣労働者は派遣元事業主に雇用されていますので、労働者としての個人情報は派遣元事業所が取得し管理しています。
派遣元事業所は個人情報保護法をふまえ、第三者に派遣労働者の個人情報をみだりに開示してはなりませんが、一方で法令に基づき個人情報の一部を派遣先に提供しなければならないケースがあります。
労働者派遣法第35条では、派遣元事業所から派遣先へ以下の情報を通知しなければならない旨を定めています。
①派遣労働者の氏名、性別
②派遣労働者が45歳以上である場合にあってはその旨、派遣労働者が18歳未満である場合にあっては当該派遣労働者の年齢
③労働者派遣に係る派遣労働者が協定対象派遣労働者であるか否かの別
(協定対象労働者である場合は、当該協定の期間末日も通知)
④派遣労働者が無期雇用か有期雇用かの別
⑤遣労働者が60歳以上の者であるか60歳未満の者であるかの別
⑥派遣労働者の雇用保険、社会保険 厚生年金保険または厚生年金基金・健康保険または健保組合、共済組合等)への加入状況
被保険者資格を取得していない 場合 は その理由も併せて通知
45歳以上である旨はなぜ通知するのか
60歳以上の派遣労働者を受け入れる場合は、派遣先事業所単位および派遣労働者個人単位ともに労働者派遣期間制限が適用されません(抵触日がありません)ので、60歳以上か未満かの通知は大変重要な情報です。
それでは45歳以上であるか否かの情報は何のために必要なのでしょうか。
そのヒントは労働安全衛生法にあります。
第62条(中高年齢者等についての配慮
事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行うように努めなければならない。
労働者派遣法第45条では、派遣労働者については派遣先を事業者(労働安全衛生法上の責任主体)として労働安全衛生法第62条を適用すると定めています。このため、派遣先は中高年齢者にあたる派遣労働者を受け入れた場合は、同条に定める適正な配置を行う努力義務があります。
残念ながら労働安全衛生法の関連通達に中高年齢者の年齢の定義はありません。
このため、同じ労働行政の中で年齢に関する定めをしている「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に照らし、当該法律で45歳以上を中高年齢者と定めていることから、45歳以上について労働安全衛生法第62条が適用されています。
真の目的は業務災害の防止
さて、人間は誰でも(個人差はありますが)年齢を重ねると身体能力が劣っていきます。大切なことは、労働者の年齢を知ることにとどまらず、労働安全衛生法第62条の示す「労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者」に対する安全教育や、業務災害を防止するための措置をどのように講ずるかです。
とある食品メーカーでは、受け入れた派遣労働者だけではなく自社の期間工にも転倒災害が増加していることに気づき、転倒事故が発生した場所に「転倒注意」のステッカーを貼りましたが、いっこうに転倒事故がなくなりませんでした。
そこで、労働者ヒアリングを重ねたところ「加齢によって踏ん張る力が低下したため、重いケースを手で運ぶ際にバランスを崩し油膜のある床でスリップする例が増えた」という事実に到達しました。その結果、作業場に給水給油マットを導入するとともに、希望者には靴底の溝が深い作業靴を貸与することで転倒災害が減少しました。
2021(令和3)年労働力調査によれば、15~64歳の就業者数は5755万人と前年に比して16万人の減少,65歳以上の就業者数は912万人と前年に比して6万人の増加と、わが国の労働者全体の高年齢化はすすんでいます。
安全教育や災害防止措置についてのご相談は、ぜひ弊社営業担当にお寄せ下さい。
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