労務管理Q&A
派遣労働者のモチベーションをアップし長く就労してもらうため、 派遣先から優秀な派遣労働者に報奨金を支給することは可能ですか。
ご質問内容
派遣労働者のモチベーションをアップし長く就労してもらうため、派遣先から優秀な派遣労働者に報奨金を支給することは可能ですか。
専門家からの回答
派遣先が直接雇用している労働者に対しては、昇給や手当支給により待遇を改善し、モチベーションや定着率をアップすることがよく行われます。
派遣労働者は派遣元事業主が雇用しているため、賃金に該当する金銭は派遣元から派遣労働者に支払う必要があり、派遣先から派遣労働者に直接支給できません。
派遣先は派遣労働者に直接賃金を支払うことができない
戦前、わが国には職業安定法が存在しなかったため、労働力を求める事業者と、仕事を求める求職者をひきあわせる労働力斡旋ビジネスが存在しました。
法律上の規制がなかったため、中には労働者の人権を軽んじた斡旋や、労働力斡旋事業者による賃金の中間控除も横行していました。
このようなビジネスを労働者供給事業といい、戦後に制定された職業安定法では原則として労働者供給事業を禁止しています。
禁止の理由としては、労働者に対して誰が使用者としての責任を担うのかがはっきりしないこと、労働の対価である賃金が労働者に支払われる前に不合理な控除が行われないようにするため、があげられます。
昭和60(1985)年に労働者派遣法が制定された際には、禁止されている労働者供給事業との差別化のため、派遣元事業主が派遣労働者と労働契約を締結し雇用関係にあること、派遣先と派遣労働者との関係は指揮命令関係であって雇用関係ではないことが明記されました。
賃金は、労働契約を締結している使用者が労働者に支払うべきものですから、雇用関係にはない派遣先から派遣労働者に対して、賃金に該当する金銭を直接支給することができません。
したがって、インセンティブとして報奨金など賃金にあたる金銭を、派遣先から派遣労働者に直接支給することはできません。
なお、派遣労働者が外勤や出張した際の旅費交通費は、賃金ではないため、派遣先と派遣労働者との間で直接精算していただいてもさしつかえありません。
派遣料金で差別化をはかり労働契約に反映する
それでは、優秀な派遣労働者の待遇を改善することで、モチベーションや定着率のアップをはかれないのでしょうか。
労働者派遣契約において、派遣料金の設定に工夫をすることで、優秀な派遣労働者の待遇を改善することができます。
(1)派遣料金の差別化
登録型派遣労働者の派遣料金は、一般的に派遣労働者が従事する業務ごとに1時間あたりの料金を定め、これに派遣就労時間数を乗ずるしくみになっています。
また、派遣労働者にとって法定時間外労働や法定休日労働、深夜労働にあたる場合は、1時間あたりの料金にさらに上乗せの料金が設定されます。
このような上乗せの料金は、単に労働時間に対するものだけではなく、優秀な派遣労働者に対して設定することも可能です。
(例)労働者派遣契約において加算料金を定める例

(2)派遣労働者の待遇の差別化
派遣元事業主は、(1)のような労働者派遣契約を受けて、派遣労働者を雇入れる際に業務内容と賃金のしくみを説明し、一定の条件にあてはまると変動する時給である旨を内容とする労働契約を締結することができます。
(例)労働契約において時給が変動することを定める例
基本時給 1,400円
不良品率4%未満の場合 奨励手当 1時間あたり70円加算
不良品率2%未満の場合 奨励手当 1時間あたり140円加算
奨励手当は、不良品率が4%または2%未満を達成した翌月の派遣就労時間すべてに適用されます。
賃金以外でもモチベーションアップにつながる工夫
派遣先は派遣労働者に賃金に該当する金銭を直接支給できませんが、金銭以外であっても派遣労働者のモチベーションをアップする方法はあります。
例えば、労働安全衛生分野で派遣労働者にもKY活動や安全パトロールに参加してもらい有益な提言に表彰状を手交したり、事故防止スローガンに応募をよびかけ優秀作品である場合は社内報に掲載するなどにより、当該派遣労働者に対し「派遣先の職場に役立つ存在である」ことを称えるなども考えられます。
派遣労働者の中には、自然災害による被災や家族の介護などの事情で、前職を離職し派遣就労を一時的に選択している人もいます。
時間の経過とともに事情が変わった場合は、直接雇用されて労働することを希望する人もいますので、派遣労働者に積極的に業務に関する知識を身につけ技術を習得いただき、派遣先にとっても「確かな人材」として直接雇用できれば、これも一種の中途採用のスキームになり得ます。

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