労務管理Q&A
2020 年改正派遣法における派遣元への情報提供に関するリスクと注意事項について
ご質問内容
2020 年改正労働者派遣法についての質問です。
改正法は、「派遣先均等・均衡方式」と派遣元による「労使協定方式」の2方式よりどちらか選択しなければならず、「派遣先均等・均衡方式」を選択した場合、派遣先における比較対象労働者を選択し、派遣元へ情報提供しなければならないと聞きました。
この派遣先からの情報提供の内容について、間違いがあった場合、派遣先に対して何らかのリスクはあるのでしょうか?
また派遣先が情報提供する際の注意点について教えてください。
専門家からの回答
ご質問の中に「『派遣先均等・均衡方式』を選択した場合、派遣先における比較対象労働者を選択し、派遣元へ情報提供しなければならない」とのご指摘があります。
この件について、より正確に言えば「派遣先における比較対象労働者を選択し、派遣元へ情報提供しなければならない」のは「労働者派遣契約に、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を労使協定方式の協定対象派遣労働者に限定しないことを定める場合(労働者派遣法施行規則第 24 条の4第1号)」とされています。
「労使協定方式のみ」を選択した場合以外については、派遣先は、派遣先における比較対象労働者を選択し、派遣元へ情報提供しなければなりませんので、ご注意下さい。
比較対象労働者については、
① 職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲が派遣労働者と同一であると見込まれる通常の労働者
② ①に該当する労働者がいない場合には、職務の内容が派遣労働者と同一であると見込まれる通常の労働者
③ ①及び②に該当する労働者がいない場合には、業務の内容又は責任の程度のいずれかが派遣労働者と同一であると見込まれる通常の労働者
④ ①~③に該当する労働者がいない場合には、職務の内容及び配置の変更の範囲が派遣労働者と同一であると見込まれる通常の労働者
⑤ ①~④に該当する労働者がいない場合には、①から④までに相当する短時間・有期雇用労働者
⑥ ①~⑤に該当する労働者がいない場合には、派遣労働者と同一の職務の内容で業務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該通常の労働者(仮想の通常の労働者)
とした(同規則第 24 条の5、労働者派遣事業関係業務取扱要領)上で、同要領には、比較対象労働者の選定手順について細かく記載されています。
また、派遣元へ情報提供すべき内容についても、
① 比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲並びに雇用形態
② 比較対象労働者を選定した理由
③ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨を含む。)
④ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及びその待遇を行う目的
⑤ 比較対象労働者の待遇のそれぞれについて、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の決定をするに当たって考慮したもの
とされていて(同規則第 24 条の 4)、さらに、比較対象労働者の待遇等に関する情報に変更があったときは、派遣先は、遅滞なく、派遣元に対し、変更の内容に関する情報を提供しなければなりません(労働者派遣法第 26 条第 10 項)。
このため、派遣先においては、比較対象労働者の選定や情報提供する内容の記載などについて大変苦労されるのではないかと推察しています。
その上で、派遣先からの情報提供の内容について間違いがあった場合の、派遣先のリスクについてのご質問ですが、比較対象労働者の待遇等に関して虚偽の情報を提供した場合には、情報提供をしなかった場合と同様の取扱いを受けることになっています。
具体的には、下記のように定められています。
① 派遣先が比較対象労働者の待遇等に関して虚偽の情報を提供した場合には、派遣先は指導・助言の対象になります(同法第 48 条第1項)。
② 派遣先が①の指導・助言に従わなかった場合には、派遣先は派遣就業の是正措置をとるべき勧告の対象になります(同法第 49 条の2第1項)。
③ 派遣先が②の勧告に従わなかった場合には、企業名の公表の対象になります(同法第49 条の2第2項)。
派遣先が情報提供する際の注意点についてのご質問ですが、上記のように、比較対象労働者の選定や情報提供する内容、情報変更があったときの変更内容に関する情報提供などについては、労働者派遣事業関係業務取扱要領に詳細に記載されていますので、その内容を熟読玩味して、ご対応頂くことになります。
なお、派遣先が情報提供するのが“「比較対象労働者」の待遇等に関するもの”である(同法第 26 条第8項)のに対し、派遣元が不合理な待遇の禁止等の対象となるのが”対応する派遣先に雇用される「通常の労働者」の待遇との間との比較”ですので、両者は必ずしも一致するとは限りません。
このため、将来はそのことが問題となる可能性は否定できませんが、現状においては、労働者派遣事業関係業務取扱要領の記載に即して実施できるように、ご準備ください。
監修:木村 大樹 氏(国際産業労働調査研究センター代表)
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