労務管理Q&A

2024.10.23

「指揮命令者」「苦情の申出先」「派遣先責任者」の違いは何でしょうか。同一人物が兼任しても問題ないのでしょうか。

ご質問内容

弊社は製造業ですが、規模が小さく拠点も１か所のみです。派遣労働者を受け入れるにあたり、「指揮命令者」「苦情の申出先」「派遣先責任者」を決めなければならないのですが、それぞれの役割がよくわかりません。管理監督の立場にいる者も少ないので、工場長が全てを兼任しても問題ないでしょうか。

専門家からの回答

労働者派遣法では、派遣先に「指揮命令者」「苦情の申出先」「派遣先責任者」となる者を選任し、労働者派遣（個別）契約書に記載するよう求めています。労働者派遣法ではそれぞれについて職務を定めていますので、法律で求められる役割が果たせるように適任者を選任することが求められます。なお、小規模事業場において、1人の人物が複数の役割を兼任することは妨げられていません。

指揮命令者

労働者派遣事業関係業務取扱要領第５章の２．（１）では、「派遣労働者を具体的に指揮命令する者」と説明しています。特に役職や資格を要件としていませんので、派遣労働者が派遣就労する日、派遣就労する時間帯に、派遣労働者に業務の指示をすることができる派遣先の労働者を指名すればよいものです。

これを言いかえると、派遣先のフルタイムではない労働者や、嘱託社員で出勤日数が少ない労働者が指揮命令者になると、派遣労働者が就労する日や時間帯に不在という状況になり、労働者派遣法の趣旨を満たさなくなりますので、注意が必要です。

苦情の申出先

労働者派遣事業関係業務取扱要領第５章の２．（１）では、「派遣労働者の苦情の申出を受ける者」と説明しています。
ここで大切なことは、「苦情の申出を受ける者」が｢苦情を解決する責任者｣ではないということです。
派遣労働者からの苦情を解決する最終的な責任は、派遣先責任者と派遣元責任者にあります。
したがって、「苦情の申出先」とは、派遣労働者からの申出を聴き、整理し、必要に応じて派遣先責任者や派遣元責任者に取り次ぐ役割を果たす位置づけです。
多くの企業では「コンプライアンス窓口」「公益通報窓口」「ハラスメント相談窓口」など、職場におけるトラブルを相談するための窓口が設置されています。
そのような窓口は、通報内容を整理して、総務部や法務コンプライアンス室などへ事案を回送しますので、派遣先のこれらの窓口となっている者を「苦情の申出先」に選任した上で、派遣先責任者に事案を取り次ぐのも効果的です。

派遣先責任者

①　専属の者を専任しなければならない
派遣先は、「事業所その他派遣就業の場所ごとに専属の派遣先責任者として自己の雇用する労働者の中から選任」しなければならいなと定められています。
ここで｢専任｣とは専ら派遣先責任者の業務にのみ従事するという意味ではなく、他の事業所の派遣先責任者を兼任しないという意味です（労働者派遣事業関係業務取扱要領第７章の１２）。なお、派遣先が雇用する労働者だけではなく、事業主や役員が派遣先責任者になることも可能です。

②　製造業では製造業務専門派遣先責任者が必要

製造の業務に５０人を超えて派遣労働者を受け入れている場合は、一般の派遣先責任者とは別に製造業務専門派遣先責任者の選任が必要です。
製造業では、４日以上の休業を伴う業務災害が、全職種中最も多く発生しているので、派遣労働者の就労現場を適宜巡回し、安全を確認する必要があるためです。

③　法律に決められた職務を遂行できなければならない

派遣先責任者は、以下のような職務を遂行する責任がありますので、労務に関する知識を有し、指揮命令者等に的確に指示をだすことができる者を選任するよう努めなければなりません。

イ　指揮命令者および関係者に次の内容を周知すること
「派遣先を事業主とみなして適用される労働基準法等の特例に関する事項」「派遣元から派遣先への通知」「労働者派遣契約の内容」

ロ　派遣可能期間（派遣先事業所単位抵触日）の延長通知

ハ　派遣労働者の均衡確保
福利厚生施設の利用の便宜供与、必要な教育訓練の実施など

二　派遣先管理台帳の作成・整備・派遣元への定期的通知・保存

ホ　派遣労働者から申出を受けた苦情の処理

へ　労働安全衛生に関する事項

ト　派遣元事業主との連絡調整

「指揮命令者」「苦情の申出先」「派遣先責任者」には、労働者派遣法上、それぞれ課された役割があります。
同一人物が兼任することは妨げられませんが、法律で求められる職務を円滑に遂行できることが前提です。